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翻訳の魅力の源

中江兆民も幸徳秋水も、名文家として知られているほどだから、いまの感覚でいえば、文章力が不足していたなぞとは、とても思えない。それでも、「原著者以上に文章の力がなくては」翻訳はできないと感じていたのである。では、「原著者以上に文章の力がなくては」翻訳ができないのはなぜなのだろうか。その理由は簡単だ。原文があるからなのだ。日本語で書き下ろすのであれば、自分か調べ、考えた範囲で書けばいい。自分で考えた範囲は、自分の語彙や表現力の範囲でもあるので、文章力が不足して書けなくなることはない。文章力の不足を感じるとすれば、他人が書いた文章と比較したとき、他人から文章の稚拙さを指摘されたときなどである。書くという作業そのもののなかでは、文章力の不足を実感することはなかなかできない。これに対して、翻訳の場合には原文があり、原文で表現されている内容を日本語で表現しなければならない。つまり、自分が調べ、考えた範囲にとどまらず、自分が考えてもいなかったことを表現する。これが翻訳の特徴である。これが翻訳の難しさの源であり、同時に、翻訳の魅力の源である。